定年延長制度とは~より良い制度にするために
公務員の定年年齢を引き上げるための法改正が進められ、地方公務員法も2023年(令和5年)度から段階的に引き上げられます。定年延長は一見、高齢期を迎えた職員の問題のようにとらえられがちですが、実は青年層の将来、さらには職場全体のこれからに関わる問題です。
このページでは、定年延長制度の主な内容を紹介しつつ、その問題点や懸念とともに、実際の運用に関わる私たちの要求案を掲載しました。
これから大多数の自治体で、9月議会を目安に定年引き上げのための条例をつくることになります。今年の6月~7月あたりが労使交渉のヤマ場となるでしょう。
ぜひこのページを、労使交渉や個々の職員の皆さんの参考にしてください。
< 目 次 >
2.定年延長の問題点(働き方・賃金・職場)
(1)働き方に関して
(2)賃金に関して
(3)職場環境に関して
3.私たちがめざす制度(要求)
(1)働き方についての要求
(2)賃金についての要求
(3)職場環境についての要求
(4)その他の要求
4.要求内容の理解のために~詳細・補足説明
(1)役職定年制の導入について
(2)退職手当の取り扱いについて
(3)定年前再任用短時間制度について
(4)高齢期部分休業制度について
(5)キャリアリターン制度について
(6)特例定年(63歳定年)の取り扱いについて
(7)高年齢期職員政策、人員政策について
1.定年延長制度の内容~6つのポイント
(1)65歳定年は9年かけて段階的に
2023年(令和5年)度4月(2024年3月31日退職者)から、2年に1歳ずつ定年を引き上げ、2031年(令和13年)度からは定年年齢は65歳となります。
(2)役職定年制(役職者の降任及び転任制度)の導入
管理監督職勤務上限年齢による降格及び転任(=以下「役職定年制」)制度が導入されます。これは、役職者が60歳に達した日以降、最初の4月1日までの間に管理監督職以外の職等に異動(降任・転任)させるものです。
(3)60歳に達した翌年度から給料が7割水準に
60歳に達して以降の4月1日から(定年延長後)、給料は7割水準に減額とされています。
(4)60歳に達した以後の退職手当の取り扱い
① 60歳を超えたらすべて「定年」扱い
60歳以降に、定年年齢に至らず退職しても、「普通退職」扱いではなく、すべて「定年」同様の取り扱いとなります。
②「当面の間」はピーク時特例を適用
60歳以後の退職手当の基本となる号給は、7割に下げられた給料(管理職は降任前)ではなく、減額前の号給を基本に計算します。これを「ピーク時特例」といいます。
(5)「定年前 再任用短時間勤務 制度」の導入
60歳に達した日以後で、定年年齢以前に退職しても、希望により短時間勤務で採用できる制度(単年度任用の再任用制度とは異なり、定年年齢までの複数年任用)が設けられます。
(6)再任用制度は暫定再任用制度へ
現行の再任用制度は廃止されますが、段階的な定年引上げ期間中は、「暫定再任用制度」として、これまでどおりの制度が残されます。
※総務省の説明資料(R3.6.25)、質疑応答-第4版(R4.2.15)、留意事項(R4.3.31)はこちらから
2.定年延長の問題点(働き方・賃金・職場)
(1)働き方に関して
・年金支給開始年齢が65歳になる下で、それまでの生活を支えるのは行政及び使用者の責任であり、65歳まで安心して働き続けられる制度の整備が必要
・高齢期は親の介護や自身の体力的な衰えなどにより、従前の勤務を続けられないケースが多くなると考えられる。様々な理由により、短時間勤務や一時的に職場を離脱することを可能とする制度、これまでの経験を活かし高齢期でも十分に働くことが可能な業務の整備なしに働き続けることは困難になる
(2)賃金に関して
・そもそも賃金は職務に応じて支払われる(職務給原則)ものであり、年齢を理由とする減額(7割支給)は認められない
・役職定年により管理監督の職務を離れた職員に管理職相当の賃金を支給する理由はなく、降格前の給料月額を根拠とする調整額の支給はお手盛りであり差別的
・定年延長職員と現行再任用職員には、給料月額の違いに相当するほど担う業務の大きな差はないと考えられ、諸手当の取り扱いを含め著しい年収差は不当
・勤続年数が増加することに伴い退職手当についても増額されるべき
・7割支給は当分の間の措置であり、段階的な定年延長の完成時に向けては、60歳までの賃金カーブ自体をいっそうなだらかなものとしていく懸念がある
(3)職場環境に関して
・厳しさの続く自治体財政のもとで、定年延長に伴って新規採用が抑制されるのではないかという懸念がある
・定年延長に伴う働き方の多様化が進むもとで、職場には、定年前の正規職員とともに、フルタイム・短時間の定年延長・再任用職員、部分休業職員、さらに会計年度任用職員等の非正規職員が混在して働くことになる。正規職員との格差、それぞれの勤務形態による格差が職場の連帯感を壊すことにならないかという懸念がある
3.私たちがめざす制度(要求)
~職員が安心して働き続けられ、住民サービスの向上にもつながる定年延長制度(再任用制度の改善を含め)を求めます~
(1)働き方についての要求
・定年前再任用短時間職員制度及び高齢者部分休業制度を導入し、希望者全員が利用できるようにすること
・暫定再任用制度では、フルタイム勤務及び短時間勤務を整備し、希望者全員が利用できるようにすること
・現行「特例定年(63歳定年)」制は維持すること
・60歳以前の退職者のキャリアリターン制度を創設すること
・特に現業職、医療・福祉職等で体力低下に配慮した業務軽減や住民サービス向上につながる新たな業務を創出すること
(2)賃金についての要求
・賃金は60歳到達時の号給実額を維持すること。管理職から降格された場合は降格後の号給実額とし、降格前の7割水準に相当する調整額の支給は行わないこと
・一律55歳昇給停止は行わず、昇給・昇格制度を改善し、60歳到達賃金を引き上げること
・勤続年数の延長に伴い退職手当の支給率及び調整額を改善すること
・定年延長職員と整合性がとれるよう再任用賃金を見直すこと。その際、生活関連手当の支給、一時金支給割合の改善を行うこと
(3)職場環境についての要求
・新規採用は抑制せず、継続的・安定的に職員を採用すること
・高齢者部分休業を含め、短時間勤務者は定数外とすること
・役職定年制においては、特例任用は極力行わないこと
(4)その他の要求
・高齢職員に配慮した職場環境づくりを進めること
・意向確認後の変更について極力配慮すること
4.要求内容の理解のために~詳細・補足説明
(1)役職定年制の導入について ※総務省資料該当ページへ
① 管理監督職の例外措置について
ア)役職定年制は、管理職手当支給対象の職員が60歳に達して以降、管理監督職以外の職等に異動させる制度ですが、以下のような例外措置が設けられています。
ⅰ)管理監督職勤務上限年齢制の適用除外
※国の場合~国の部局等に勤務する医師、研究機関等の長等
ⅱ)管理監督職勤務上限年齢の例外
※国の場合~事務次官、外局の長、審議官等(いずれも62歳定年)
ⅲ)管理監督職勤務上限年齢による降任等の特例(特例任用)
イ)このうち自治体では、ⅲ)の「特例任用」が措置される可能性が高いと見込まれますが、これまでも60歳を超えて管理職につかなければならない状況は極めて例外的であったはずです。
ウ)したがって、組織の新陳代謝や次世代育成のため、恣意的・情実的、不平等・不公平につながる例外措置は極力避けるべきです。どうしても例外措置を設けざるを得ない場合には、客観的運用を確保するため、適用基準を限定列挙させるなど曖昧な判断をさせないようにする必要があります。
② 管理監督職の降任に関わる基準について
ア)管理監督職の職員の降任は、降任後の職務・職責や労働条件にとどまらず職場のあり方(職員のモチベーションや職場の一体感)にも大きく影響します。60歳を超えた管理監督職以外の職員との均衡をどう図るかなど、慎重な検討が求められます。
イ)実際の降任にあたっては、❶降格時号給対応表の活用・新設、❷昇格時号給対応表を逆読み、❸降格級の最高号位格付けということが想定されますが、労働条件であることから労使交渉事項と捉え協議するべきです。
(2)退職手当の取り扱いについて ※総務省資料該当ページへ
ア)国家公務員の「退職手当法」では、60歳以後定年前に退職した者の退職手当について「60歳に達した日以後に、定年前の退職を選択した職員が不利にならないよう、当分の間、「定年」を理由とする退職と同様に退職手当を算定する」としています。
イ)すなわち、65歳まで働き続けることが困難な職員が、定年年齢を待たずに60歳以降退職した際も「定年扱い」の支給率で退職手当を計算することとしています。
ウ)また、60歳以後の退職手当の基本額は、70%に下げられた給料ではなく、減額前の給料月額(号給)に応じた期間を考慮した計算となります。これを「ピーク時特例」といいます。「ピーク時特例」は、現在でも各自治体の退職手当条例で定められていますので、必ず適用させましょう。
エ)退職手当は、「基本額」と退職時の役職段階ごとに定められた「調整額」を合算した金額になります。
オ)「基本額」は、「60歳時点の給料表の額 × 60歳の支給率」プラス「定年退職までの7割に減額された額 × (定年退職時の支給率 - 60歳時の支給率)で計算されます。
ただし、60歳到達時に35年以上勤務している場合には、支給率が上限(現在は47.709月)に達しており、定年延長後の勤務期間が考慮されることはありません。「調整額」の改善を含めた検討が求められます。
(3)定年前再任用短時間制度について ※総務省資料該当ページへ
ア)この制度は、60歳に達した日以降に定年年齢以前で退職しても、本人の希望により短時間での勤務が可能となる制度です。総務省は、すべての自治体に対し必要な条例整備を求めています。
【定年前再任用短時間勤務制度】
・定年前再任用短時間勤務制度とは、60歳に達した以降いったん退職し、再任用の短時間勤務職員として働く制度です。
・賃金・労働条件は、基本的に暫定再任用職員と同様の取り扱いとなります。
・暫定再任用職員との違いは、希望する職員の定年年齢まで任用期間が拘束されることです。
・2030年(令和12年)度までの期間は、定年延長者(フルタイム)、定年前再任用短時間勤務者、暫定再任用者(フル・短時間)が混在することになります。
イ)この制度は多様な働き方を実現するために導入するものであり、現行再任用制度下で、フルタイム・短時間両方の任用を認めていない自治体では、高齢期職員の自己選択権を保障する立場から、フルタイムの暫定再任用制度と併せて確実な導入・運用が求められます。
ウ)定年年齢が65歳になるまでの移行期間は、定年前短時間再任用職員も定年年齢後に65歳まで暫定再任用職員として働くことが可能となります。
・このことから、介護など様々な事情から定年前再任用短時間勤務を選択した職員が、定年年齢後はフルタイムの暫定再任用職員としての勤務を選択可能とする必要があります。
・ただし、65歳定年完成後は、定年前再任用短時間勤務を一度選択してしまうと65歳まで短時間勤務で拘束されることになります。多様な働き方を実現する立場で、後述する高齢期部分休業制度などフルタイムへ移行できる制度の検討を求めます。
(4)高齢期部分休業制度について ※総務省資料該当ページへ
ア)この制度は2006年(平成16年)の地方公務員法改正で導入されたもので、概ね55歳(条例で定める年齢)以上の常勤職員について、常勤の2分の1までの範囲で部分休業(給与減額を伴う)ができる制度です。総務省も定年延長制度導入を契機に導入・運用を求めています。
イ)ただ定員上の取り扱いが「定員内」カウントのため、条例化されていない自治体が多いのが実態です。定年前再任用短時間制度でも短時間勤務は可能ですが、介護などで一時的に短時間勤務が必要な職員にフルタイム勤務への復帰は、部分休業の選択以外に方法がありません。すべての自治体で条例化する必要があります。
ウ)条例化されている自治体では、導入当初(平成16年)は「定年5年前(概ね55歳)」からと設定されていましたが、平成26年度から年齢の枠づけは撤廃されており、自治体の実情に応じて検討することも必要でしょう。
(5)キャリアリターン制度について
キャリアリターン制度とは、育児・介護等の理由で早期退職した職員を選考により再採用する制度で、滋賀県や神奈川県、綾瀬市などで導入され、民間でも導入する企業が増えています。
【滋賀県の導入事例】
○導入の目的:介護、育児等の事情により止むを得ず本県を退職した職員が、その在職中に培った本県職員としての知識、技能を活かし、即戦力として再活躍してもらうことをねらいとして、元職員の再採用制度を導入。
○対象者:ⅰ~ⅳのいずれにも該当する退職者(病院関係職種、教員、警察職員は除く)
ⅰ)退職理由:介護、育児その他のやむを得ない事情により退職
ⅱ)在職期間:5年以上(ただし、休職、停職、育児休業及び修学部分休業等の期間は除く)
ⅲ)退職後の期間:退職後10年以内
ⅳ)年齢:採用予定日において、59歳以下(※現在は60歳定年なので59歳)
(6)特例定年(63歳定年)の取り扱いについて
現業職員等について63歳定年となっている自治体があります。これらの職では、給料表の格付けが低位だったり、中途採用で退職金の支給率が低い段階の職員がいることが想定されています。63歳定年者が在職している自治体では、引き続き63歳までは現行どおりとし、その後65歳まで延長するよう求めます。
(7)高年齢期職員政策、人員政策について
① 誰もが安心して働き続けられる職場環境の構築
自治体職場には、デスクワーク以外にも、看護師・保育士・学童支援員・現業職(清掃・給食調理・校務員・道路維持・緑地整備員等々)など体力が必要な職場で働く職員がたくさんいます。65歳まで安心して働き、「雇用と年金の接続」を図る上では、職場の実情に合った働き方の改善、職の確保・開拓が必要です。
ア)働き方の改善
ⅰ)仕事量の調整
ⅱ)時間外勤務の制限
ⅲ)夜勤などの制限
イ)職の確保・開拓
ⅰ)長年の経験が活かせる業務開拓
ⅱ)民間化業務の再直営化による「職」の確保
② 多様な働き方が認められ、尊重される職場風土の醸成
近年、育児・介護の両立支援制度など権利が拡充される一方で、職場では権利を行使しづらいギリギリの人員配置による職場の理解不足という状況があります。定年延長など制度の確立をも踏まえた改善が必要です。
ア)両立支援制度等の権利がどの職場でも、誰でも気持ちよく行使できるよう人員配置を改善
イ)どの職場でも所属長をはじめ職員が多様な働き方を尊重するよう労使で啓発、周知を徹底
③ 新規採用継続と高齢期職員制度を活用した人員増・長時間労働是正
定年延長制度が始まれば、2年に1度、定年退職者がいない年度が生じ、普通・勧奨等の退職者の補充以外での職員採用に制約が生じかねません。
一方で、コロナ禍で明らかになった人員不足の解消、慢性的な長時間労働実態の是正、そして多様な働き方が認められ尊重される職場づくりに人員増は不可欠です。また、世代ごとの人員に凹凸があることは、組織活力を維持する上で弊害をもたらす可能性もあります。
定年延長のもとでこそ新規採用者を確保し人員増を実現します。
ア)職場の労働実態に即した条例定数の見直し、確実な定数配置
イ)育休中の定数外取り扱いを活用した「育休正規代替配置」
ⅰ)新規採用職員を適切に確保するためにも、について、制度化されていない単組では、制度化実現を求めます。
ⅱ)制度が実現している単組では、新採確保の一手として、さらなる拡充を求めます。